今回は「サプライチェーンマネジメントー2」として、SCMの応用としてのキャッシュフロー経営を取り上げます。
(1)キャッシュフロー経営
キャッシュフロー経営とは現金を回収できる権利である債権より現金の回収と有高を重視する経営を言います。
たとえば、売上を計上すると売掛金という現金を回収できる債権が発生しますが、現金回収は売上時点から数ヶ月遅れるのが普通です。現金が売上から回収の間、寝てしまい物品購入や投資に使えない債権が存在していることになります。
債権でなく現金を多く所有している企業があれば、必要な投資や物品購入が即時に可能ですので、競争優位を築く戦略が早めに実施できることになります。
スピードの速いビジネス環境下ではこのキャッシュフロー経営が重要視される意味がご理解できると思います。
さて、このキャッシュフロー経営を生産形態の異なるメーカー、すなわち「見込み生産のメーカー」、「受注生産のメーカー」、「デルモデル」例に考察してみようと思 います。
(2)生産形態によるキャッシュフロー
◆見込み生産のメーカー
消費財を中心にこのタイプのメーカーが多いのですが、この生産方式を採るメーカ
ーは、通常次月度分のオーダーを前月の中旬頃に仕入先に対して行います。そし
て、その材料や部品を商品とし、出荷して販売します。その一月分の在庫は販売に
応じて徐々に減少していきます。反対の見方をすると、在庫が長期間滞留します。
資金は在庫という形で長期間寝てしまいます。
売れ残りが出ると不良在庫を消却しますのでその資金は無くなってしまいます。
キャッシュフローは他の生産形態を持つメーカーと比較しますと悪くなります。
◆受注生産のメーカー
この方式は、機会装置や建築、造船など重厚長大型に多い生産方式です。この生産
方式を採るメーカーは、顧客の発注に基づいて生産をするわけです。仕入先への発
注は顧客の発注に基づいた材料や部品の数量になります。
受注生産での材料や部品の仕入れは必要量であり、製品化後すぐに出荷されます。
したがって、在庫の滞留期間は見込み生産方式に比べると短期間になります。
キャッシュフローの観点で見ますと、見込み生産方式と比べるとキャッシュフロー
は良好になります。
受注生産方式で見込み生産メーカーのような生産形態が取れるとより良いキャッシ
ュフロー経営が出来そうです。
“そのような、生産方式があるのでしょうか?”
それがキャッシュフロー経営の権化といわれる「デルモデル」です。
◆デルモデル
マイケル・デルによって開発されたモデルで、キャッシュフローを最大にしていま
す。
顧客からの受注の主体はインターネットによる受注です。この受注形態はアドバン
スペイメント(=前金制)ですので、受注時に入金があり、売上は納品時ですから
後で計上されることになります。
全ての部品、中間製品の在庫はサプライヤーであるベンダーが所有しています。
自社は最終組み立てをする工場ノードしか所有していませんが、ベンダーはデルの
工場からの発注に基づいて短期間に納品します。
自社工場で短期間に組み立て、フェデックスを用いて顧客に平均3日以内に届けて
います。
このモデルのキーはなぜベンダーが自社在庫として持ち、デルに協力することで
す。
理由は簡単です。デルモデルは顧客の需要動向をサプライヤーに対してインターネ
ットで公開しているからです。顧客の需要動向が逐次は把握できますので、注文が
来る前に、予測生産が可能になり、在庫も最小の状態でのビジネス運用が実現でき
るわけです。
すなわちデマンドチェーンとサプライチェーンを一致させたことによる効果です。
第30回はここで終了します。
今回はサプライチェーンのキャッシュフロー経営をまとめました。
次回は、サプライチェーンの設計に焦点を当てた「サプライチェーンマネジメント-3」を取り上げます